
きょうは、F値が「いくつなら良いのか」まで踏み込んで決めていきます
分類のモデルを作ると、最後にF値が出てきます。
0.72。
さて、これは良いのでしょうか。
そこなんだよね。数字は出るけど、良し悪しが分からない

計算式は、どの本にも載っています。
ところが「いくつなら合格か」は、あまり書かれていません。
ここは、大人の学び直しに特有の詰まりだと思っています。
学生時代なら、合格点は決まっていました。
60点で通る。そう言われていたからです。
いまは、合格点を自分で決めなければなりません。
数字の読み方より、そちらのほうが難しい。
なので、決め方まで書きます。
結論:F値は「両方できているか」を1つにした数
まず、見ている2つを押さえます。
- 適合率(Precision) … 「該当」と答えたうち、本当に該当だった割合。誤検知の少なさ
- 再現率(Recall) … 本当の該当のうち、拾えた割合。見逃しの少なさ
片方だけなら、いくらでも上げられます。
全部「該当」と答えれば、見逃しはゼロ。
自信のある1件だけ答えれば、誤検知はゼロ。
どちらも、使い物になりません。
F値は、この2つを1つの数にまとめたもの。
その計算に、調和平均を使います。
なぜ普通の平均ではなく、調和平均なのか
ここが、この指標のいちばん面白いところです。
式そのものは、単純です。
F1 = 2 × 適合率 × 再現率 ÷ (適合率 + 再現率)
ふたつの値の調和平均、そのものです。
では、なぜ足して2で割らないのか。
実際に並べると、一目で分かります。
| 適合率 | 再現率 | 足して2で割る | F値(調和平均) |
|---|---|---|---|
| 1.00 | 0.00 | 0.50 | 0.00 |
| 0.90 | 0.10 | 0.50 | 0.18 |
| 0.50 | 0.50 | 0.50 | 0.50 |
3つとも、普通の平均では同じ0.50です。
え、上のふたつ、全然ちがう状態だよね


そこです。普通の平均だと、片方が壊れていても真ん中の顔をしてしまうんです
調和平均は、低いほうに強く引っぱられます。
だから、片方をごまかして稼ぐことができません。
どちらかが0なら、F値も0になります。
「両方できていること」を要求する。
そのために、この平均が選ばれています。
「トレードオフだから高い値は出ない」は誤解です
よくある疑問がここです。
適合率と再現率は、片方を上げると片方が下がる。
ならば、F値が0.8を超えるようなモデルは怪しいのではないか。
もっともな疑問ですが、ここにはひとつ抜けている前提があります。
そのトレードオフは「同じモデルのまま、判定の線を動かしたとき」の話です。
線を甘くすれば、たくさん拾えて、誤りも増える。
線を厳しくすれば、誤りは減って、見逃しが増える。
これは、確かにシーソーです。
でも、モデルそのものが良くなれば、シーソーごと持ち上がります。
両方が同時に上がることは、普通に起こります。
だから「値が高い=過学習」ではありません。
そこは切り離して考えてください。
では、過学習はどこで見抜くのか
結論から書きます。
値の高さでは分かりません。
分かるのは、学習に使ったデータと、使っていないデータの「差」です。
学習データで0.95、未知のデータで0.60。
これは、覚えただけの状態です。
学習データで0.88、未知のデータで0.85。
こちらは、高くても健全です。
単体の数字じゃなくて、差を見るのか


そうです。高さは状態を表しません。差のほうが表します
ひとつだけ、例外的に疑うべき場合があります。
難しいはずの問題で、いきなり0.99が出たときです。
この場合、まず疑うのは実力ではありません。
答えそのものが、入力に混ざっていないかを見ます。
解約したかを当てたいのに、解約日の列が入っている。
こういう混入は、実務でよく起きます。
出来すぎた数字は、喜ぶ前に疑う。
これは覚えておいて損がありません。
結局、いくつなら良いのか
ここが本題です。
先に、はっきり書いておきます。
業種を越えて通用する合格ラインは、ありません。
「0.7以上なら良い」といった表を見かけます。
ですが、その線に根拠はありません。
問題の難しさが違えば、同じ0.7の意味も変わるからです。
代わりに、比べる相手を決めます。
① 何もしない場合と比べる
1,000件のうち、該当が30件だとします。
全部「該当しない」と答えるだけで、正解率は97%になります。
賢そうな数字ですが、1件も拾えていません。
この場合、再現率は0。
したがってF値も0です。
F値が効くのは、まさにこういう偏ったデータです。
正解率では見えないものが見えます。
② いまの運用と比べる
人が手作業で拾っている、その精度が比較の相手です。
それを超えていれば、0.6でも導入する価値があります。
超えていなければ、0.85でも意味がありません。
絶対評価じゃなくて、相対評価なんだ


そうなんです。だから「よそは0.8だから」という話には、あまり意味がなくて
見逃しと誤検知、どちらが痛いか
最後に、実務でいちばん効く調整を書いておきます。
F値は、2つを対等に扱います。
でも現場では、たいてい対等ではありません。
病気の見落としと、念のための再検査。
痛さが、まるで違います。
そういうときは、重みを変えられます。
- 見逃しを避けたい … 再現率を重く見る(F2など)
- 誤検知を避けたい … 適合率を重く見る(F0.5など)
F1は、その真ん中にすぎません。
F1を使うというのは、
「見逃しと誤検知は同じくらい痛い」と決めた、という意味です。
その前提が違うなら、指標のほうを変えるべきです。
ここは、既定のまま使われがちなところだと思っています。
数式より、意味のほうが残ります
最後に、勉強のしかたの話を少しだけ。
この手の指標は、覚えても抜けます。
調和平均の式も、たぶん来月には出てこないでしょう。
それで構いません。
式は調べれば出てきます。
残すべきは「片方だけでは稼げない仕組みになっている」という一点。
そこさえ握っていれば、式は後から取りに行けます。
大人の学び直しで効くのは、この握り方のほうだと思っています。
覚えた端から忘れることについては、知識の定着率は、繰り返した回数で決まりますにまとめました。
ここを含む統計の範囲をどこまでやるかは、統計検定2級と準1級、どちらが必要かで線を引いています。
